Air Dole

air dole

からっぽなわたしも知らずしらずに
どこかであなたと繋がっている

【古びたアパートで持ち主の秀雄と暮らす空気人形は、ある朝、本来は持ってはいけない「心」を持ってしまう。彼女は秀雄が仕事に出かけるといそいそと身支度を整え、一人で街へと歩き出す。メイド服を着て、おぼつかない足取りで街に出た彼女は、いろいろな人に出会っていく。ある日、レンタルビデオ店で働く純一と知り合い、そこでアルバイトをすることになる。ひそかに純一に思いを寄せる彼女だったが…】




空気人形。喪失感、孤独な心、現代の人と人との関わり、身近にありそうな人間の感情が漂う。透明感のある作品なのに存在感のある、不思議な映画。何も考えず、静かな夜に一人で見るのが良い映画。以下、作中で読まれる詩。


吉野弘「生命は」

生命は 自分自身だけでは
完結できないように つくられているらしい
花も めしべとおしべが揃っているだけでは 不十分で
虫や風が訪れて めしべとおしべが仲立ちする
生命は その中に
欠如を抱き それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分 他者の総和
しかし 互いに 欠如を満たすなどとは
知りもせず 知らされもせず
ばらまかれている者同士 無関心でいられる間柄
ときに うとましく思うことさえ許されている間柄
そのように 世界がゆるやかに
構成されているのは なぜ?
花が咲いている すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光りをまとって飛んできている
私も あるとき
誰かのための虻だったろう
あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない